【感想】リッチマン・プアウーマンはなぜ色褪せないのか。不器用な人間たちが織りなす愛と再生の記録

ドラマの感想

こんにちは、yasuです。

時折、過去の名作を振り返ることでしか得られない発見に出会うことがあります。

「フジドラWINTER」キャンペーンと題して、TVerにて期間限定で全話配信されていたドラマ『リッチマン・プアウーマン』を改めて視聴しました。

2012年の放送当時、社会現象とまで言われた本作ですが、約10年の時を経て見返すと、当時とは全く異なる感情が湧き上がってきました。

正直に申し上げれば、放送当時は「IT社長とシンデレラ」という設定があまりに出来すぎているように感じ、斜に構えていた記憶があります。しかし、今改めて向き合うと、その王道設定こそが、現代社会が失いつつある「直球の情熱」を描くための最良の舞台装置だったのだと気付かされました。

今回は、小栗旬さん石原さとみさんという稀代の俳優たちが演じたこの作品について、単なる恋愛ドラマの枠には収まらない「人間ドラマ」としての魅力を綴っていこうと思います。

2012年の熱狂とmiwaの「ヒカリへ」が象徴するもの

本作が放送された2012年は、スマートフォンが急速に普及し、世界がデジタルシフトしていく過渡期でした。そんな時代背景を背負った本作は、小栗旬さん演じるITベンチャー社長の日向徹と、石原さとみさん演じる就職難の大学生・夏井真琴(偽名・澤木千尋)の物語です。

主題歌であるmiwaさんの「ヒカリへ」は、ドラマの象徴としてあまりに有名です。一聴するとキラキラとした高揚感だけが耳に残るかもしれませんが、ドラマの展開と合わせて聴くと、その歌詞には「不確実な未来への不安」と「それでも前へ進む意志」が内包されていることに気づきます。

いわゆる「トレンディドラマ」的な派手な演出や、都合の良すぎる展開と批判されることもあるジャンルかもしれません。しかし、本作におけるそれらの要素は、視聴者を物語に没入させるための強力な引力として機能しています。リアリティがないのではなく、現実の閉塞感を打破するためのファンタジーとしての強度が、この作品には備わっているのです。

いけ好かない性格破綻者・日向徹が愛される理由

主人公の日向徹は、第一話の時点では、はっきり言って「嫌な奴」です。人の顔や名前を全く覚えられず、それを悪いとも思わず、合理的であることを正義とし、役に立たない社員を容赦なく切り捨てる。もし現実社会で上司にいたら、間違いなく誰もついていかないタイプの人間でしょう。

しかし、物語が進むにつれて、彼のその冷徹さは「悪意」によるものではなく、純粋すぎる「ものづくりへの執着」と「他者への不器用さ」の裏返しであることがわかってきます。

彼は、社会的な常識や忖度が欠落している代わりに、嘘をつきません。彼の発する言葉は時に鋭利な刃物となって人を傷つけますが、そこには一切の欺瞞がないのです。現代社会において、私たちはどれほど本音を隠して生きているでしょうか。日向徹というキャラクターが持つ「いけ好かない部分」は、実は私たちが心の奥底で憧れる「嘘のない生き方」そのものなのかもしれません。

だからこそ、彼がふとした瞬間に見せる人間味や、真琴に対してだけ見せる不器用な優しさが、強烈なギャップとなって視聴者の心を掴んで離さないのです。

「高学歴で無能」というレッテルと夏井真琴の強さ

一方、ヒロインの夏井真琴もまた、コンプレックスの塊として描かれています。東京大学理学部という輝かしい学歴を持ちながら、就職活動は連戦連敗。圧倒的な記憶力という特技を持ちながらも、それをどう社会で活かせばいいのかわからない。

初期の彼女は、要領が悪く、空回りばかりで、見ていて痛々しいと感じる場面も多々あります。日向の邪魔をしてしまうこともあり、視聴者によってはイライラさせられるキャラクターかもしれません。

しかし、彼女の「泥臭さ」こそが、デジタルの世界に生きる日向に欠けていた最後のピースとなります。効率や合理性では割り切れない「人の想い」や「温かさ」を、彼女は理屈ではなく行動で示し続けます。

彼女の鈍臭さは、言い換えれば「諦めの悪さ」であり「誠実さ」です。完璧なヒロインではないからこそ、彼女の成長と、日向との心の交流が、嘘のないドラマとして成立しているのです。

栄華と転落、そして裏切りが描くビジネスの非情さ

『リッチマン・プアウーマン』を単なる「シンデレラストーリー」だと捉えていると、中盤以降の展開に足元をすくわれます。ここには、骨太なビジネスドラマとしての残酷さが描かれているからです。

特に注目すべきは、日向の共同経営者であり、唯一の友人とも言えた朝比奈恒介(井浦新さん)の存在です。彼は日向の良き理解者として振る舞いますが、天才の影に隠れ続けることへの劣等感は、静かに、しかし確実に彼を蝕んでいました。

信頼していた人間からの裏切りにより、日向は会社を追われ、全てを失います。この「転落」の描写が容赦ありません。しかし、この絶望的な状況こそが、ドラマの真骨頂です。

何もかもを失った日向が、それでも「面白いものを作りたい」という初期衝動だけを頼りに、ゼロから這い上がろうとする姿。そこには、金や名誉のためではなく、純粋なクリエイターとしての魂が描かれています。この再生の物語は、働くことの意味を見失いかけている現代人の心に、静かな火を灯してくれるはずです。

Netflix『匿名の恋人たち』に見る、小栗旬の系譜

最後に、少し視点を変えて最近の作品との関連性について触れておきたいと思います。先日Netflixで配信が開始された、小栗旬さん出演の『匿名の恋人たち』をご覧になったでしょうか。

この作品で小栗さんは、とあるチョコレート店のオーナーを演じています。ジャンルも雰囲気も異なりますが、ここで彼が演じている「社長としての才を持ちながら、極度の潔癖症で他人との距離感を計るのが苦手」という役柄に、私は日向徹の面影を見出さずにはいられませんでした。

『リッチマン・プアウーマン』から10年以上が経ち、年齢を重ねた小栗さんが再び「不器用な天才社長」を演じていることには、ある種の感慨深さがあります。

日向徹が鋭利なナイフのような天才だったとすれば、『匿名の恋人たち』での彼は、より繊細で壊れやすいガラスのような天才です。しかし、根本にある「好きなものへの純粋さ」と「人との関わりへの不器用さ」は共通しています。もし日向徹がITの道を歩まず、別の世界線で別の業種で社長となっていたら、こんな年の取り方をしていたのかもしれない。そんな想像を膨らませながら、二つの作品を並べて鑑賞するのも、また一興です。

まとめ:不完全だからこそ美しい人間たちの記録

『リッチマン・プアウーマン』は、完璧な王子様と完璧なヒロインの物語ではありません。社会に適合できない天才と、自分の価値を見出せない秀才が出会い、互いの欠落を埋め合わせるのではなく、ぶつけ合いながら成長していく物語です。

性格が悪くても、要領が悪くても、裏切られても。それでも人は誰かを想い、何かを作り出すことができる。

一見すると華やかな「リッチマン」の物語に見えますが、その本質は、誰もが抱える孤独と、それを癒やすための労働と愛の記録なのだと思います。もし今、仕事や人間関係に行き詰まりを感じているのであれば、ぜひこのドラマを見返してみてください。そこには、今必要としている言葉が、静かに置かれているかもしれません。

yasu

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